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大阪地方裁判所 昭和26年(ワ)319号 判決

原告(脱退) 配炭公団

参加人 国

被告 大阪陶管工業協同組合

主文

被告は参加人に対して金一、九五四、九七七円及び内金一、七八〇、〇〇〇円に対する昭和二四年一一月二九日から右支払済に至るまで金一〇〇円につき一日金五銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は参加人において金六五〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

参加人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告公団(昭和二四年九月一五日政令第三三五号配給公団解散令により解散)は、昭和二二年六月以降経済安定本部総務長官の定める割当計画及び配給手続に従い、物価庁長官の定める価格により、石炭等の一手買取及び売渡の業務を行つてきた特殊法人であるが、被告に対して昭和二二年九月一二日から同二四年八月一六日までの間次の約定で合計二、九五〇トン六九〇の石炭を代金合計八、五五九、四四一円四六銭で売り渡し、その引渡を了した。

(一)  販売価格は物価庁の定める荷渡条件別販売統制額による。

(二)  荷渡条件は、艀岸着送状面渡、着駅貨車乗送状面渡又は貯炭場積込改斤渡。

(三)  代金支払条件は毎月一五日締切月末支払、月末締切翌月一五日支払。

(四)  昭和二三年六月二三日以降販売の石炭について代金支払を遅滞した場合は日歩五銭の割合による延滞利息を支払う。

これに対して被告は昭和二二年九月一〇日から同二四年一一月二八日までの間に合計六、七七九、四四一円四六銭の支払をした(昭和二二年九月一〇日被告からの預金一九二、五三〇円を代金の内入に振替えたものを含む。)が、残代金一、七八〇、〇〇〇円については、同二五年四月右債務の存在を確認する旨の書面(甲第二号証)を差入れながらその支払をしない。

そうして、参加人は、配給公団解散令一三条に基き同二六年三月一日原告公団より被告に対する前記残代金債権とこれに対する延滞利息債権を取得し、同年三月二四日原告公団から被告にその旨の通知をしたから、被告に対し前記残代金一、七八〇、〇〇〇円及び

(1)  昭和二四年三月末日以前に荷渡し、同年四月一五日以前に支払期の到来した石炭代金一、四七二、〇二四円一四銭について、

(イ)  同年五月九日内入をうけた金三〇〇、〇〇〇円に対する同月一日から同月九日までの日歩五銭の割合による延滞利息金一、三五〇円

(ロ)  同年五月三〇日内入をうけた金四六八、七九七円五四銭に対する同月一日から同年五月三〇日までの前同割合の延滞利息金七、〇三一円九六銭

(ハ)  同年六月二五日内入をうけた金三、二二六円六〇銭に対する同年五月一日から同年六月二五日までの前同割合の延滞利息金九〇円三四銭

(2)  同年四月前半に荷渡し同月三〇日支払期の到来した石炭代金七〇〇、四二九円について、

(イ)  同年六月二五日内入をうけた金三五六、七九七円四〇銭に対する同年五月一日から同年六月二五日までの前同割合の延滞利息金九、九九〇円三三銭

(ロ)  同年七月二一日内入をうけた金二二〇、八二三円に対する同年五月一日から同年七月二一日までの前同割合の延滞利息金九、〇五三円七四銭

(ハ)  同年八月一五日内入をうけた金六〇、〇〇〇円に対する同年五月一日から同年八月一五日までの前同割合の延滞利息金三、二一〇円

(ニ)  同年一一月二八日内入をうけた金六二、八〇八円六〇銭に対する同年五月一日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金六、六五七円七一銭

(3)  同年四月前半荷渡し同月三〇日弁済期の到来した石炭代金二四八、八四八円に対する同年五月一日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金二六、三七七円八九銭

(4)  同年四月後半荷渡し同年五月一五日弁済期の到来した石炭代金四二二、二三五円に対する同年五月一六日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金四一、五九〇円一五銭

(5)  同年五月後半荷渡し同年六月一五日弁済期の到来した石炭代金一六二、七五二円に対する同年六月一六日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金一三、五〇八円四二銭

(6)  同年六月後半荷渡し同年七月一五日弁済期の到来した石炭代金四一六、一九九円に対する同年七月一六日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金二八、三〇一円五三銭

(7)  同年七月前半荷渡し同年七月三一日弁済期の到来した石炭代金一〇一、八〇二円に対する同年八月一日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金六、一〇八円一二銭

(8)  同年七月後半荷渡し同年八月一五日弁済期到来した石炭代金三七八、三八五円に対する同年八月一六日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金一九、八六五円六二銭

(9)  同年八月後半荷渡し同年九月一五日弁済期の到来した石炭代金四九、七七九円に対する同年九月一六日から同年一一月二八日までの前同割合の延滞利息金一、八四一円八二銭

(以上(1) ないし(9) 合計一七四、九七七円)

(10)  前記残代金一、七八〇、〇〇〇円に対する最終の内入弁済の後である昭和二四年一一月二九日以降支払済に至るまで日歩五銭の割合による延滞利息金

の支払を求めるため本訴に及んだと述べ

被告の代金減額の抗弁に対して、被告が昭和二六年七月五日の本件準備手続期日において前記引渡済の石炭の数量の不足、品質の瑕疵を理由として代金減額の請求をしたことは認めるが、引渡済の石炭に被告主張のような数量の不足、品質の瑕疵がなかつたし、本訴に至るまでに被告からそのような事実の通知は勿論、これを理由に代金減額の請求を受けたことはない。仮に被告主張のように引渡済の石炭に数量の不足があり、品質に瑕疵があつたとしても、原告公団はこれを知らなかつたし、また原告公団は独立の事業体として利鞘を得て石炭の販売及び販売行為を反覆し、これを業としているものであるから商人であるが、被告も、営利自体を目的とする団体ではないけれども、その目的を達する手段として利鞘を得て物資の購入又は購売行為を反覆しこれを業とする事業団体であるから、その限りにおいて商人であるというべきであり、そうして商人間の売買においては、目的物の数量の不足及び品質の瑕疵を遅滞なく通知する義務があるのに、被告は原告公団に対し石炭の買入当時その通知義務を怠つているから、本訴において代金の減額を請求できないし、仮に被告主張のように商人間の売買でないとしても、右の代金減額請求は被告が石炭の数量の不足、品質の瑕疵を知つたときから一年以上を経過した後になされたものであつてその効力がないから被告の抗弁は失当であると述べた。〈証拠省略〉

被告は「参加人の請求を棄却する。訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告が参加人主張の日からその主張のような業務を行つてきた法人であること、被告が参加人主張の期間その主張のような約定で原告公団から石炭を買いうけて(但し数量代金の点を除く)、その引渡をうけ、これに対して、その主張の頃、その主張のような代金の内入をしたこと、参加人主張の日原告公団から被告に対しその主張のような債権譲渡の通知があつたことはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。すなわち、被告が原告公団から買いうけて引渡をうけた石炭は参加人主張の数量より二五パーセント少い二、二一三トン〇一七五、代金合計六、四一九、五八一円九銭五厘であつて、これに対し被告は既に前記の通り代金額を上廻つた金六、七七九、四四一円四六銭を支払つているから現在残代金債務を負担しない。なお、被告が原告公団に差し入れた甲二号証の債務確認書は昭和二四年九月被告の理事長に就任した柴山良一が、被告の帳簿に参加人主張のような数量の石炭をその主張のような代金で買いうけその引渡しをうけた旨の記載があつたのを真実なものと誤信して、その誤信に基き作成した書面であるから、その存在を以て被告が参加人主張のような残代金債務を負担することの資料とはなし得ないこというまでもない。

仮に、被告が参加人主張の通りの石炭を買いうけたとしても、被告が実際に引渡をうけた石炭の数量は前記の通り二、二一三トン〇一七五であり、且つその品質は粗悪であつたので、被告は引渡をうける都度遅滞なく原告公団に対してその旨通知し、引渡をうけた数量相当額まで代金の減額を請求しているから、当時既に代金は金六、四一九、五八一円九銭五厘に減額された。仮に、被告において右石炭の引渡の都度、数量の不足品質の瑕疵を原告公団に通知することを怠り、代金減額の請求をしていなかつたとしても、原告公団は売渡の当初から数量の不足、品質の瑕疵を知つていた悪意の売主であるから、被告は昭和二六年七月五日の本件準備手続期日において原告公団に対して被告主張額まで代金の減額を請求した。したがつて、被告が既に原告公団に対して右代金額を上廻つた支払をしている以上、現在参加人に対して支払うべき残代金債務は存在しない。と述べ、参加人の再抗弁に対して、被告が前記本訴においてなした代金減額請求は、数量の不足、品質の瑕疵を知つてから一年以上の期間を経過して後になされたものであることは認めるが、売主である原告公団が商人でないのは勿論、被告も組合員の緊密な結合により陶管工業の改良発達に資するため組合員の事業経営の合理化を図るに必要な協同施設をすることを目的として昭和二二年二月二一日設立され、その後中小企業協同組合法の施行に伴い同二四年九月一日その組織を変更して現在に至つている協同組合であつて、組織変更の前後を通じてその団体としての性格には変化なく営利目的で事業を営んでいるものでないから商人ではない。そうだとすると、本件石炭の売買については、商人間の売買の担保責任に関する商法五二六条の規定の適用がないし、仮に参加人主張のように本件石炭の売買の当事者双方が商人であるとしても、前記の通り原告公団は悪意の売主であるから、被告には数量の不足、品質の瑕疵を通知する義務がなく、これを遅滞なく通知しなかつたことのために、代金減額請求権を行使できないわけがない。なお売主が悪意の場合においては、買主の代金減額請求権の行使期間に関する民法の規定は適用がないと解すべきであると述べた。〈証拠省略〉

理由

被告が参加人主張の日からその主張のような業務を行つてきた原告公団から、その主張の期間その主張のような約で、石炭を買いうけ(但し代金、数量の点を除く。)、その引渡をうけて、これに対し、その主張のように代金の支払をしたことはいずれも当事者間に争がなく、参加人主張のような数量及び代金額の石炭を原告公団より買いうけた旨被告の帳簿に記載があるとの被告自から認める事実に、成立に争のない甲一号証の一ないし五の各イロ、二号証、証人山崎大助、船津稔、黒田洋助の証言及び被告代表者柴山良一本人尋問の結果を総合すると、被告が原告公団から買いうけた石炭の数量及び代金額はいずれも参加人主張の通りであり、且つ買受当時被告は原告公団発行の契約数量を記載した指図書により現品の引渡をうけたこと、被告は昭和二五年三月三一日当時原告公団に対して金一、七八〇、〇〇〇円の残代金債務を負担していたことが認められ、証人船津稔、黒田洋助の証言及び被告代表者柴山良一本人尋問の結果中右認定に反する部分は信をおかない。その他右認定に反する証拠はない。

そこで被告の代金減額の抗弁について判断する。

一、品質の瑕疵を理由とする代金減額の請求について、

被告は買受石炭の品質の瑕疵を理由として代金減額の請求をしたと主張するが、買主が目的物の瑕疵を理由として売買の解除、損害賠償の請求をするなら格別であるが、これを理由として代金の減額を請求することができないこと民法の規定に照して明かであるから、被告のこれを前提とする抗弁は、その余の判断をするまでもなく、理由がない。

二、数量不足を理由とする代金減額の請求について、

被告は買受石炭の数量に不足があるのを発見したから買受当時代金減額の請求をしたと主張するので考えてみるに、被告と原告公団との前記石炭の取引期間中は石炭の厳重な配給統制が実施されていて、需要者が必要とする数量の石炭の配給はおろか、石炭の配給割当を受けることすら容易でなかつたとの当裁判所に顕著な事実に、証人山崎大助、船津稔、黒田洋助の証言、被告代表者柴山良一本人尋問の結果を総合すると、被告は原告公団から石炭の引渡をうける都度その数量に若干の不足があることを発見したけれども、被告は、当時原告公団が前記の通り石炭等の一手販売の公的機関であり、被告から右の苦情を申入れることにより、原告公団の係員の感情を害し、その後の石炭の割当に際し何等かの不利益な取扱をされるよりは、多少の数量の不足は我慢しても、従来通り順当な割当を受ける方が得策であると一方的に思惟した結果、右数量不足の事情を原告公団に通知しなかつたし、したがつて代金の減額を請求もしなかつたことを認められ、前記各証人の証言及び被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は当裁判所の信を置けないところであり、他に右認定に反する証拠はない。そうだとするとこの点に関する被告の抗弁は理由がない。

次に、被告は買受石炭の数量の不足を理由として本訴において代金減額の請求をしたと主張するので、果してその効力があるかどうかについて考えてみるに、被告が石炭の数量の不足を知つた一年以上後である昭和二六年七月五日の本件準備手続期日において、原告公団に対して代金の減額を請求したことは当事者間に争がない。そうして配炭公団法によると、配炭公団が「経済安定本部総務長官の定める割当計画及び配給手続に従い石炭等の適正な配給に関する業務を行うことを目的」として設立された法人であつて、独立の事業体として収支の均衡を得て、「物価庁の定める価格による石炭等の一手買取及び一手売渡を業とする」ものであるから、営利会社と異なり公の行政を行う一種の公法人であるが、独立の事業体として収支の均衡を得て石炭等の買取及び売渡行為を反覆し、これを業としている面に着目するときは商法五〇一条一項に該当する行為を反覆しこれを業としているものと解するを相当とするからその限りにおいて商人というべきである。しかしながら、他方、成立に争のない乙一、二号証を総合すると、被告は被告主張のような目的で昭和二二年四月一五日設立され、その後中小企業等協同組合法の施行に伴い同二四年九月一日その組織を変更して現在に至つている協同組合であつて、協同組合が、これを規律する法令の規定により認められるように、中小企業等協同組合法の施行の前後を通じ、その目的とする事業は特定され、しかもその事業は営利を目的とするものではなく(営利を目的としないことは当事者間に争がない)、また設立の目的は組合員である中小規模の商工業者等が相互扶助の精神に基き協同して事業を行い組合員の公正な経済的活動の機会を確保してその事業の健全な発展を図るにあたつて、資本主義的観念における組織体というよりは、これに対する中小企業者等の自己防衛的な組織体としてその存在の意義を有することに鑑みるときは、被告はその性質上商人となり得ないものと解するを相当とするから、原告公団と被告との本件石炭の売買は、商人間の売買にあたらないこと明かである。したがつて前記認定のように被告が石炭の数量の不足を遅滞なく原告公団に通知しなかつたとしても、これがために代金減額請求権の行使に消長をきたさないこというまでもない。しかしながら、代金減額請求権の行使期間に関する民法五六四条の規定は文理上売主の善意なると否とにより区別を設けていないばかりでなく、本来売主の担保責任に関する制度が、債務不履行の制度と異なり、売買の有償性に鑑み売買当事者間に生ずる不均衡を信義則の立場から是正することを目的とした買主保護の制度であつて、売主の主観的責任とは無関係なものであること、かくて買主に認められた売主の担保責任を追求するための権利も、その行使を無制限に許すにおいては法律関係を永く不安定な状態に置くこととなり、取引の安全を害するのは勿論売主にも酷な結果となつて担保責任を認めた趣旨にそむくので、その権利行使の期間に制限を設ける必要があること等から推考すると、売主の善意なると否とにより買主の権利行使の期間に差別を設ける合理的な根拠はないから、仮に売主である原告公団が被告主張のように悪意であつたとしても、被告はその代金減額請求権を数量の不足の事実を知つたときから一年以内に行使するを要するというべきである。そうだとすると、被告の昭和二六年七月五日の本件準備手続期日においてなした代金減額請求権の行使は既にその期間経過後になされたものであつて、その効力を認めるわけにはいかない。したがつてこの点の被告の抗弁も理由がない。

そうして配炭公団解散令の規定並びに成立に争のない丙一号証によると、原告公団の被告に対する前記石炭残代金債権一、七八〇、〇〇〇円と本件石炭売買契約上の約定延滞利息債権及び昭和二六年二月二八日現在の未収売掛金延滞利息金債権は同年三月一日から参加人に帰属したことが明かであるから、被告は参加人に対して右残代金一、七八〇、〇〇〇円とこれに対する最終の内入弁済の後である昭和二四年一一月二九日から支払済に至るまで日歩五銭の割合による延滞利息金及び参加人主張の(1) ないし(9) のような内入金に対するその主張の期間の約定延滞利息金合計一七四、九七七円の支払義務がある。

よつて参加人の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 中島孝信 芦沢正則)

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